はなしにならないはなし07
Vol.7 ビンタの理由
よく映画やテレビドラマの冬山登山遭難の場面で、「眠ったらだめだ」と頬にビンタをするのを見ます。
痛い思いをさせて目を覚まさせるのであれば、何もほっぺたではなくお尻をつねってもよさそうですが、なぜかいつもビンタです。
私たちの体には「反射」といって、体中のいろいろな場所にあるセンサーに刺激を与えると,脳に直接情報を伝え,ある種の指示や指令がくだされるという仕組があります。ほっぺたの内側の頬筋にもセンサーがあり、ここを刺激すると目を覚まさせ意識をはっきりさせる「覚醒反射」が働きます。
運転中に眠くなった時ガムを噛んで眠気を覚ますのも,眠い時にやたらとあくびが出るのも、ものを噛み口を大きく開けることで頬筋を使い刺激して、覚醒反射を起こしているのです。
そういえば引退した横綱の若乃花も、取組の時間寸前になるとしきりに頬を自分で打って、気合いを入れていました。
頬筋を使いものを噛むという行為は、単純に食べ物を消化するというだけでなく意識をはっきりさせ体中をシャキッとさせるという働きを持つわけです。
以前寝たきりで入院中のお年寄りに往診して、総入れ歯を作った時のことです。製作前は、言葉も不自由で体を起こすのも大変だった患者さんが、ちゃんと噛めるようになると少しずつ元気になり、最後の調整の時には、ベッドの横で私が来るのを待っていて、「先生、お陰でずいぶん元気になりました。」と挨拶されたのには驚きました。
逆に健康な方でもしっかり噛むということを疎かにすると、恐ろしいことになります。ムシ歯が痛かったり、奥歯がないのを放っておいたり、歯周病で歯がぐらぐらしていたりして、余り噛まずに丸呑みしていると、胃や腸に負担をかけるだけでなく体中の機能がうまく働かなくなることがあります。
最近の若い人はボーッとしていて覇気がなく、集中力が足りないという声を聞くことがありますが、ファーストフードやスナック菓子などの、柔らかいものばかり食べているからなのかもしれません。
よい歯でよく噛み、シャキッと生きたいですね。