はなしにならないはなし10

Vol.10 良い歯医者さんの見つけかた

良い歯医者さんはどうしたら見つけられるでしょうか。「○○大学卒業後、米国留学。最新の治療をします。」とか「抜歯専門。痛みなく早く抜きます。」とか「入れ歯作りに自信あり。」などと、広告や看板に書いてあれば、歯医者さんを選ぶ目安になります。しかし医療法の中で、限られた項目以外の情報は一切表示することができないと決まっていますので、たとえ「往診します。」でさえも掲示できないのです。口コミや地元の評判、歯科医院の店構えや雰囲気でしか判断できないのが現状です。

ふつう良い歯医者さんとしてイメージするのは、牛丼屋さんのキャッチフレーズではありませんが、「早く」「安く」「うまく」ということだと思います。しかしながら、本当にそれが良い歯医者さんなのでしょうか。

我々歯科医が考える良い診療とは、患者さんのお口の中の病気をしっかりと治し、その状態を長期間保つことにあります。そのためには、患者さんにご自分のお口の中の状態とそれに対する治療法やメンテナンスの方法を説明し、理解してもらわなければなりません。痛いとか腫れたとか自覚症状がある場所は分かりやすいのですが、何も症状がなくても病気が進行しているケースもあります。また歯周病などの慢性的な病気では、根本的に治すには時間がかかります。つまり、手間も暇もかかるのです。反面、患者さんにとってみれば、とりあえず今困っているところを「早く」「安く」「うまく」治したいという要求があることも事実です。

患者さんのこの牛丼屋さん的要望と、専門医としての医学的見地の狭間で、患者さんに対して状況を説明し理解してもらい、お互いの価値観を少しでも歩み寄るように努力していく姿勢が、良い歯医者さんの条件といえるかもしれません。どの歯医者さんも皆そういう姿勢で診療には臨んでいるはずですが、話をあまり聞いてくれない方や、いつも時間に大幅に遅れる患者さん、ひんぱんに無断でキャンセルされる方などには、限られた診療時間の中では歯医者さんの意欲も薄れていくでしょう。逆に、熱心に聞いてくれる方、歯科医を信頼し積極的に診療に参加される方には、精一杯頑張ろうと熱も入るわけです。

良い歯医者さんを見つける一番いい方法は、ご自分が良い患者さんになることなのかもしれません。