はなしにならないはなし05

Vol.5 夢の治療インプラント

歯の治療には大きく分けると、虫歯を削ったり抜いたりするマイナスの治療と、削った穴を埋めたり抜いた所に入れ歯を入れたりするプラスの治療とがあります。この機能と形態を回復するプラスの治療を総称して補綴(ほてつ)処置といいますが、時代と共にやり方も素材も変わってきました。
江戸時代には黄楊(つげ)で作った入れ歯があったそうですが、将軍などほんの一部の人しか使っていなかったそうです。近年になると、金属やプラスチック、最近ではセラミックなどを詰めるようになりました。入れ歯もプラスチックのものから金属製のものまで様々です。その中でインプラント(人工歯根)は一番画期的な治療法といっていいかもしれません。

今までのプラスの治療は歯の一部を補ったり、残っている歯を利用して歯を増やしたりする方法が主でした。それに反し、インプラントは全く歯のない所に、人工の歯を埋め込むというやり方ですので、いわばゼロからプラスを生み出す方法なのです。

初期のころのインプラントは、骨に埋め込む方法ではなく、骨と歯肉の間の骨膜にそっと置くというやり方でしたが、あまりうまく行きませんでした。現在では、骨に専用のドリルで穴を開け、インプラントを埋め込みます。当初は、ハイドロオキシアパタイトという歯や骨の成分に近い素材を使っていましたが、今はチタン製が主流です。

チタンというのはおもしろい性質を持った金属で、普通は体内に素材の違うものを入れると、異物排除機転といって、異物を外に追い出そうという作用が働くのですが、ことチタンに限っては、身体は反応せず、むしろ一緒になろうという傾向にあります。骨とくっついてしまう(オステオインテグレーションといいます)というこの性質により、チタン製のインプラントは非常に強固で丈夫な人工歯根となり得るわけです。お陰でインプラントを利用して、単に一本の歯を被せるだけでなく、矯正治療の固定源にしたり、磁石を使った取りはずしの入れ歯に利用したり、応用範囲が広がりました。極端に言えば、総入れ歯の方でも数本のインプラントにより、固定式の歯で噛むことも可能になったわけです。

骨を削って埋め込むなんて言うと、相当痛そうだなと思うかもしれませんが、無菌的な局所麻酔下で行いますので、痛みは感じません。

こうしてみるとインプラントはいい事づくめの夢の治療のようですが、いくつか欠点もあります。

まずインプラントは感染に対して非常に弱いものですから、プラークコントロールをしっかりしないといけません。歯磨きをサボると、ぐらぐらになって抜けてしまいます。また、骨となじむまでに時間がかかりますので、治療期間が半年以上かかることもあります。重度の糖尿病や代謝異常の方や、あごの骨の大きさ・幅が充分にない方も適応例ではない場合があります。最後に、保険医療の対象外ですので、高額の費用がかかります。

興味のある方は、インプラント治療の研修を受けた専門医にご相談下さい。