はなしにならないはなし14

Vol.14 「こどもの歯の健康」

小さなお子さんのいるお母さんから、「うちの子はなかなか歯を磨かさないので、ムシ歯が多くて困ってます。先生何とかして下さい。」と頼まれることがあります。そんな時「ではまず、お母さんのお口の中を拝見します。」と言うと、「私ではなく子供です。子供をお願いします。」と困惑する方が多いようです。

こどもの歯の健康を維持するのに、母親の役割は重大です。おなかの中にいる時から、母体の健康がこどもの歯の状態に関係していますし、出産後も母親の食生活や生活習慣がこどものムシ歯に大きく関わっています。

「うちは代々、歯の質が弱いらしくムシ歯が多いのですが、こどもにも遺伝するのですか。」と聞かれる事がありますが、遺伝するのは歯の質だけでなく、歯磨きの習慣や食べ物の好みなどの生活環境も伝わっていくのだと思います。

妊娠中の母親の役割は重要です。乳歯や一部の永久歯は、歯の基になる種(歯胚といいます)が胎児のうちにでき始めます。そういう時期にお母さんが風邪をひいたり、ひどい妊娠中毒を起こしたりすると、栄養障害から歯の種づくりに支障を来す事があり、結果的に出産後に生えた歯の表面のエナメル質がもろくなり、ムシ歯になりやすくなります。

お子さんが生まれてからの役目はもっと大事です。赤ちゃんに充分な栄養を与え、すくすくと育てる事はもちろん、新生児が種々の病気にかからないようにする事も肝要です。この時期のアクシデントは、歯も含めた身体のいろいろな場所に大きな影響を及ぼします。また『三つ子の魂百まで』といいますが、幼年期までに基本的な生活習慣や嗜好が決まるといわれていますので、注意が必要です。特に甘みに対する感受性は大人の数倍といわれてますので、小さいお子さんに大人と同じ甘いものをあげていると、甘みに鈍感になり、将来人の何倍ものケーキをたいらげる事にもなりかねません。

食べ物だけではなく、食間に与える飲み物にも気をつけなければなりません。スポーツドリンクなどの健康飲料は身体にとって完璧にいい物と考えている方が多いと思いますが、大量の甘味料が入っていますので、ムシ歯の大敵です。規則的な食事と食後の歯磨き、帰宅後の手洗いとうがい、早寝早起きなどの基本的な生活習慣も、お母さんと一緒に覚えてもらいたいと思います。

もう一つ、ムシ歯のあるお母さんがお子さんと同じ食器を使用したり、口移しで食べさせたりすると、唾液を通じてお子さんにムシ歯を引き起こすバイ菌が移る事もあります。無菌的に生まれてくる新生児には、特に注意したいと思います。

冒頭にも触れましたが、お母さんが生活習慣のお手本となり、ムシ歯もしっかりと治していくと、連動してお子さんのムシ歯も良くなっていくようです。環境の改善という面と、もう一つ母子間のムシ歯菌の感染の改善という面があるようです。

毎日のお手入れと定期的な歯の検診を怠らずに、お母さんとお子さんとが一緒に健康な歯を保ちたいですね。