はなしにならないはなし08

Vol.8 親知らず 親の心 子知らず

「親知らずって、痛くなくても抜かなくてはいけないですか。」
と患者さんによく聞かれます。
「親知らずを抜かずに置いておくと、歯並びが悪くなったり、口が開かなくなったりするって本当ですか。」と聞かれることもあります。
本当でしょうか。答えは、イエス。

『親知らず』と俗に呼んでいる歯は、正式には『智歯』といい、前歯から数えて8番目の歯、大きな奥歯では3番目の歯ですので、『8番』とも『第3大臼歯』ともいいます。

かつて人類は、木の実・穀物・果物から肉・魚・貝まで、あまり調理されていない様々な食べ物を食べていましたので、あごが非常に発達していました。親知らずも、その大きな顎の中でしっかりと生え、ちゃんと噛み合って機能していました。

しかし、人類の進化(退化?)とともに顎は小さくなり、現代人では親知らずの萌出する場所がなくなり、生えてこなかったり、変な場所や横を向いて生えてくるケースが増えてきたのです。
すると半分歯肉に覆われていたり、となりの歯の蔭に隠れていたりして、歯ブラシが届かず充分に汚れが落とせないため、ムシ歯や歯周病が発生することとなります。

親知らずが腫れたというのは、親知らずの回りの歯肉が炎症を起こす限局性の歯周病ですが、それ以外にもムシ歯になったり、変な噛み合わせから顎関節症を招いたり、隣の歯にムシ歯や歯周病を起こしたり、いいことはありません。また、横向きの親知らずは手前の歯を少しずつ押し、ドミノ倒しのように、前歯の歯並びを悪くすることもあります。

ちゃんと生えていてムシ歯にもならず、きちんと噛んでいる場合や、手前の奥歯が抜けていて、ブリッジや入れ歯を入れる時に役立つケースでは、親知らずを抜く必要はありませんが、それ以外の場合は前もっと抜いたほうがいいと思います。
構造的な欠陥が原因ですので、塗り薬や飲み薬で一時的に症状を抑えても、またいずれぶり返してしまいます。

やはり根本的に解決するには、多少の痛みを伴うかもしれませんが、構造改革が必要なのです。
(どっかで聞いたせりふですね。)
一度脹れてしまうと、バイ菌の繁殖を抑えるため、抗生物質を飲んで炎症を抑えてからでないと、抜歯できませんが(無理をして抜くとすごく腫れます)、妊娠中や仕事の忙しいときなどは(特にそういう時に腫れます)、計画通りに行きません。バイ菌の繁殖してない時つまりなんでもない時に抜いた方がいいのです。

「いつか爆発する不発弾が埋まっているようなものですから、早めに取っておいた方がいいですよ。」と患者さんに説明するのですが、「今のところ痛くないからいいです。痛くなったら考えます。」と逃げ腰の方も多く、なかなか理解してもらえません。
まさに『親の心子知らず』という心境です。

口腔外科という看板を掲げている歯医者に行けば、ほとんどの親知らずは抜いてくれると思いますが、たまに難しいケースでは大学病院などを紹介することもあります。
あとで楽をするために、いつか提出する宿題は、今やっておきたいですね。